厚生労働省によると、2010年に「認知症高齢者の日常生活自立度」Ⅱ(※)以上の高齢者数は280万人で、2025年には470万人に増えると予想しています。*1
実際に働いていると、認知症の利用者さんに出会うことも多いですよね。
認知症といっても、意思疎通ができなかったり徘徊したりと、利用者さんによって症状がさまざまなので、どう関わっていいのか迷うことがあると思います。
そこで今回は、
- なぜ認知症の介護は難しいのか
- 認知症へのありがちな接し方
- 認知症の人はどう感じているのか
- 認知症介護の基本的な心構え
認知症介護のコツをしっかりおさえて、日々の業務に活かしましょう。
(※)日常生活に支障を来たすような症状・行動や意思疎通の困難さが多少見られても、誰かが注意すれば自立できる状態。なぜ認知症介護は難しいの?
認知症は、脳細胞が壊死したり脳が萎縮したりして起こる病気です。
治療薬はありますが、症状の進行を抑える程度で、完治する薬はありません。そのため、認知症を発症したら長く付き合っていくことになります。
そこで介護が必要になるのですが、認知症への関わりは難しいと感じる人も多いようです。それは一体、なぜなのでしょうか?
認知症介護には、以下のような特徴があります。
意思疎通が難しい
記憶力や理解力が低下することで、意思疎通が難しくなります。何度も同じ内容を聞くことも珍しくありません。
症状が変化する
認知症の症状は一定ではなく、徐々に進行していきます。
また、1日の中でも変化することもあります。そのため、利用者さんの変化に柔軟に対応するスキルが求められます。
気が抜けない
徘徊や弄便(ろうべん)などがあると、利用者さんを常に気にかけなければなりません。
デイサービスや施設など、大勢の人を同時に介護する場では注意が散漫になるので、疲れを感じやすくなります。
暴力や暴言でつらい気持ちになる
認知症のせいだと分かってはいても、利用者さんから暴力や暴言があるとつらくなってしまいます。「自分の関わり方が悪かったのか」と、悩む人も少なくありません。
認知症へのありがちな接し方
認知症の人についしてしまう対応の仕方をまとめました。日頃の自分の対応を振り返ってみてください。
間違いを否定する
一見問題ないように思えますが、認知症の人にとっては不安を増強させてしまいます。
例えば、暑い夏の日に「今日はずいぶん寒いわね」と言ったり、「財布がない!誰かに盗られた!」と主張したり、真実ではないことを言うことがあります。
ここで「違いますよ」と否定しがちですが、認知症の人は混乱するだけです。
安全面に関わる場合は例外ですが、否定しない関わり方が求められます。
手助けは甘えだと思っている
「自分でできることは自分でする」というのは基本ですが、症状が進行するとこれまでできていたことができなくなります。
それなのに手助けせず、今まで通りやってもらうのは、認知症の人にとって見放されたような気持ちになります。
本人の気持ちをないがしろにする
「認知症だから、どうせ分からないだろう」と、勝手に物事を進めるのはよくありません。
認知症は、出来事を忘れてもそのときに感じた感情は残るといわれています。利用者さんの心に嫌な感情だけが残り、介護者に対して「この人は分かってくれない」と思われる可能性があります。
そうすると、利用者さんは心を閉ざし、その後のケアがスムーズにいかなくなります。
認知症の人はどう感じているの?
認知症の人は、日頃どのように感じているのでしょうか?
私たちが全てを正確に把握するのは難しいかもしれませんが、認知症の人の立場になって考えてみましょう。
できていたことができなくなることに対する戸惑い
認知症の症状のひとつに「実行機能障害」があります。これは、計画的に物事を進めることができなくなる症状です。
例えば、いつも観ていたDVDの再生の仕方が分からない、料理の段取りが分からなくなる、などがあります。
当たり前にできていたことができなくなるので戸惑います。
今後に対する不安
自分がこれからどうなっていくのか、一番不安に感じているのは認知症の人本人だといわれています。
物忘れが頻繁におきたり、できないことが増えたりすることは、その人の尊厳も傷つけます。
このような状況で周囲から否定されると、より不安な気持ちになってしまいます。
認知症介護の基本的な心構えとは?
これまでの内容をふまえ、認知症の人に対してどのような姿勢で向き合ったらいいのか、5つのポイントにまとめました。
認知症を理解する
まずは、認知症の症状やその人の気持ちを理解することが大切です。理解しなければ、適切なケアはできません。
また、認知症を理解することで、介護者のストレスを減らすことにもつながります。
妄想や暴言は負担に感じるときもありますが、認知症を理解していればダメージを減らせます。
その人らしさに寄り添った介護をする
認知症とひとくくりにせず、その人に合わせた介護が必要です。
何ができて、何に困っているのか、利用者さん一人ひとりとじっくり関わり、見極めたうえでケアを考えましょう。
安心感を与える関わり方をする
否定したり急かしたりすると、認知症の人は混乱してしまいます。穏やかな表情で、共感を示す声かけをしましょう。
これは、徘徊や妄想のときでも同じです。徘徊を見つけたときは、危険がなければ少し付き添ってみましょう。
妄想の場合は、否定せず「そうだったんですね」と話を聞くだけで気持ちが落ち着くこともあります。
はっきりと分かりやすい言葉で伝える
一度に多くのことを言われても、認知症の人は混乱してしまいます。何かを伝えるときはゆっくりと、簡潔に伝えるようにしましょう。
後ろからではなく、目を見て伝えることも効果的です。
生活しやすいよう環境を整える
「環境を整えれば自分でできる」という認知症の人も多くいます。
出掛けるときに必要なものは一か所にまとめて置く、日めくりカレンダーで日にちが分かるようにするなど、その人にあった環境を作りましょう。
さらに認知症のケアについて理解を深めたい方には、こちらの記事もおすすめです。
認知症を理解し、その人に合った介護を実践しよう!
認知症にはさまざまな症状があり、本人にとってもつらい病気です。まずは認知症を理解し、寄り添うような関わり方を心がけましょう。
そして、ストレスをためないために、一人で抱え込まないことも大切です。
対応に困ったり悩んだりしたら、一緒に働くスタッフに相談し、チームで関わっていきましょう。
(Posted by 浅野すずか)