「仕事の幅を広げたい」
「自分の介護スキルをもっと磨きたい」
このように考えている人におすすめなのが、「喀痰吸引等研修」です。利用者に対し痰の吸引や経管栄養ができる資格で、医療ケアを必要とする人が増えているなか注目されています。
そこで今回は、以下について分かりやすくまとめました。
- 喀痰吸引等研修の概要
- 喀痰吸引等研修を取得するとできる仕事と働ける場所
- 喀痰吸引等研修を取得する流れ
- 喀痰吸引等研修に必要な費用
介護職員等の喀痰吸引等研修とは?
喀痰吸引等研修は、2012年4月から始まった制度です。
それまで、たんの吸引や経管栄養は「医行為」(医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為)であり、「介護士は、一定の条件の下にたんの吸引等の行為を実施することができる」とされていました。法制化されるまでは*実質的違法性阻却論により一定の条件の下で、介護士の喀痰吸引は容認されていたのです。
この度「喀痰吸引等研修」が整備されたことで、介護職員が確実な手技で対応できるようになり、利用者の安全にもつながるというメリットがあります。
- ある行為が処罰に値するだけの法益侵害がある(構成要件に該当する)場合に、その行為が正
当化されるだけの事情が存在するか否かの判断を実質的に行い、正当化されるときには、違法
性が阻却されるという考え方。 - 形式的に法律に定められている違法性阻却事由を超えて、条文の直接の根拠なしに実質的違法
性阻却を認める。 - 具体的には、生じた法益侵害を上回るだけの利益を当該行為が担っているか否かを判別する作
業を行う。
介護職員等の喀痰吸引等研修を取得しているとできる仕事
「喀痰吸引研修」は、喀痰吸引(口腔内、鼻腔内、気管カニューレ内部)と経管栄養(胃ろうまたは腸ろう、経鼻経管栄養)の技術が習得できます。
ただし、これらの行為が「日常生活を営むのに必要な行為であって、医師の指示のもとに行われるもの」とされており、取得したからといって誰にでも行っていいわけではありません。
また、研修を受ければどこでもたん吸引・経管栄養を行えるわけではなく、事業者が登録喀痰吸引等事業者として都道府県に届け出る必要があります。
登録の要件と対象となる施設・事業所は以下の通りです。
- 医師、看護職員等の医療関係者との連携の確保
- 記録の整備その他安全かつ適正に実施するための措置
- 具体的な要件については省令で規定
- 介護関係施設(特別養護老人ホーム、老人保健施設、グループホーム、 有料老人ホーム、通所介護、短期入所生活介護、等)
- 障害者支援施設等(生活介護、グループホーム、等)
- 在宅サービス(訪問介護、重度訪問介護(移動中や外出先を含む)、等)
- 特別支援学校
資格を取得し、すぐに働きたい場合は、登録喀痰吸引等事業者になっているかどうか事前に確認することをおすすめします。
介護職員等の喀痰吸引等研修から目指せる次のキャリア
喀痰吸引等研修を取得すると、医療ケアができる介護職員として働けます。医師や看護師が終日いるのでない施設や、医療ケアを必要とする利用者がいる訪問介護事業所などでは重宝されるでしょう。
また、転職希望先が登録喀痰吸引等事業者の場合、転職にも有利です。働ける場所が広がるので、より自分の求める条件に合った職場に出会える可能性があります。
介護職員等の喀痰吸引等研修の資格を取得するには?
ここからは、「喀痰吸引等研修」の資格を得るために、どのような手順をふめばいいのか具体的に説明します。気になる受講場所や費用についてもまとめましたので、ぜひ参考にしてください。
介護職員等の喀痰吸引等研修の資格取得方法
喀痰吸引等研修の資格を取得する大まかな流れは、以下の通りです。
- 基本研修と実地研修を受ける
- 修了証明証書が交付される
- 都道府県に修了証明証書を添付し、認定証交付の申請をする
- 認定証が交付される
次に、詳しい内容について説明します。
資格を取得するには、講義と演習からなる「基本研修」と、実際の介護現場で行う「実地研修」を受ける必要があります。研修を受けられる場所は、都道府県または登録研修機関です。
登録研修機関とは、都道府県知事に一定の登録要件(登録基準)満たしていることを申請し、認められた機関のことをいいます。
研修は、ただ受ければ合格というわけではありません。講義のあとに筆記試験、演習と実地研修のあとに評価を受け、合格する必要があります。
研修カリキュラムは、第1号研修から第3号研修まで3つに分かれています。
- 第1号研修(不特定多数)
喀痰吸引及び経管栄養について、対象となる行為のすべてを行う類型
基本研修+実地研修 - 第2号研修(不特定多数)
喀痰吸引(口腔内及び鼻 腔内のみ)及び経管栄養 (胃ろう及び腸ろうのみ)を行う類型
基本研修+実地研修
※実地研修は、気管カニューレ内吸引及び経鼻経管栄養を除く - 第3号研修(特定の者):実地研修を重視した類型
基本研修+実地研修
※実地研修は、特定の者に対する必要な行為についてのみ
第1号研修:不特定多数の利用者に対応でき、喀痰吸引と経管栄養の全ての技術を取得できます。
第2号研修:不特定多数の利用者に対応できますが、取得できる技術は気管カニューレ内吸引と経鼻経管栄養以外です。5つの技術の中から選択したものしか取得できません。最大4つの技術が選べます。
第3号研修:重度の障害がある利用者など、個別性の高い特定の利用者に対応できます。そのため、取得できる技術は利用者によって異なります。
一番オーソドックスなのは第1号研修で、取得するとさまざまな利用者に対応できます。長期的にみて介護スキルを高めたい人には、第1号研修がおすすめです。
全ての課程が修了すると、「認定特定行為業務従事者」として認定証が交付されます。
ただし、一部の介護福祉士は、研修が免除になる場合があります。
介護福祉士養成施設において医療的ケア(喀痰吸引等)を受けて介護福祉士を取得した人は、あらためて取得する必要はありません。ただし、実地研修を受けていない人は、受ける必要があります。
2016年度からスタートした実務者研修を修了し介護福祉士を取得した人は、基本研修(講義・演習)が免除になります。そのため、実地研修を受けるのみで取得できます。
自分が今までどんな研修を受けてきたのか再度確認し、「喀痰吸引等研修」に必要なルートをチェックしましょう。
介護職員等の喀痰吸引等研修の取得までにかかる期間
「喀痰吸引等研修」を取得するまでには、第1号・第2号研修の場合、早くても2週間程度かかるといわれています。
例えば、第1号研修の場合、
- 講義:50時間
- 演習:5つそれぞれの手技を5回以上
- 実地研修:口腔内吸引10回以上、経鼻経管栄養20回以上
第3号研修の場合は、
- 講義:8時間
- 演習:シミュレーター演習1時間、現場演習(問題なくできるようになるまで)
- 実地研修:看護師の評価により問題ないと判断されるまで実施
しかし、これらはあくまでも目安です。すでに取得している資格によって、免除になる内容があります。また、試験に不合格になったり、評価で基準をクリアしないと、さらに期間を要します。
介護職員等の喀痰吸引等研修の取得までにかかる費用
研修を受ける場所によって違いがありますが、第1号・第2号研修は12~15万円程度、第3号研修は6万円程度が多いです。
実地研修を現在勤めている施設でできる場合や、受講免除になる研修がある場合は、それぞれ費用が異なります。
研修が受けられる施設の一覧は都道府県のホームページに記載されているので、自分が通いやすい施設をピックアップし比較してみてください。
介護職員等の喀痰吸引等研修の資格取得のための支援制度
「喀痰吸引等研修」を取得するにあたり、費用が負担に感じる人は多いと思いますが、今のところ金銭的に支援する制度はありません。
ただし、実務者研修を取得済みで基本研修が免除になる人は、費用が安くなるうえに研修を受ける負担も軽くなります。
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介護職員等の喀痰吸引等研修の資格取得を目指そう
喀痰吸引等研修によって知識や技術をしっかり学べ、より確実に医療ケアができるようになりました。
要介護者数の増加や介護ニーズの変化にともない、ますます介護職員の高い知識・技術が求められます。一見すると、介護職員の負担が増えるように感じますが、看護師だけでなく介護職員も医療ケアができることで、利用者がより手厚いケアを受けられます。これまで以上に、利用者からの信頼も高まるでしょう。
また、喀痰吸引等研修の取得を武器に、より条件の良い職場での勤務が可能になります。このように、メリットも多くあるのです。
介護業界にとってなくてはならない人材を目指し、あなたも喀痰吸引等研修を取得しませんか?
(Posted by 浅野すずか)
参照:
厚生労働省 介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度について(社会福祉士及び介護福祉士法)